東京23区が豪雨に見舞われたときに、どこがどう浸水していくのか。コンピューター上で細かく再現し、20分後の予測まで示すシステムがこの9月、本格運用に入った。
激しい雨のときに試してみると、画面の路地の1本1本が次々に水色に染まり、ところどころでさらに色が変わっていった。雨雲が通り過ぎると次第にもとへと戻り、降った雨水の振る舞いが手に取るようにわかる。
このシステムは「S―uiPS(スイプス)」と言い、早稲田大や東京大などのチームが開発した。大都市の「水みち」は複雑だ。下水の排水能力を超えると一気に道路が冠水し、思わぬ方向から水が来ることもある。切迫した状況がリアルタイムでわかれば、高い階への避難や、地下街への止水板設置などの対処に生かせる。
「ようやく納得のいくものに仕上がりました」と関根正人・早大教授は言う。
開発のきっかけは2000年に名古屋付近の都市部を襲った東海豪雨という。信頼性を高めるため、実データを使った計算にこだわった。
道路や下水道の太さ、土地利用などの細かなデータを入れ、国土交通省のレーダー観測網がとらえた雨量と、気象庁の30分後までの予測データを組み合わせる。雨水の流れを一つひとつ計算し、20分後まで描き出す。
文部科学省の研究費もつき、計算速度の課題も克服。東京五輪に合わせ20年の公開を目指したが、コロナ禍での延期もあって、点検と改良に時間をかけてきた。19年の台風19号で起きた実際の浸水の状況とも照合し、自信をつけた。
機は熟した。9月1日に限定公開を始め、さらに6日には、「9月下旬より一般公開」と報道発表した。
ところが、一般公開は始まらなかった。発表後に「待った」がかかったのだという。
「混乱が懸念されると言われ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル